木々のあいだに立つ赤い屋根と時計塔の小さな木造の建物。後ろにはオフィスビルが立ち、手前を路線バスが走っていく

札幌 / ガイド

札幌市時計台の鐘は、門の前ではなく向かいのテラスで聞く

札幌市時計台札幌市時計台

札幌市時計台で使える時間が10分なら、門の前で写真の順番を待つのはやめて、通りを渡ってください。正面入口の真向かいにあるビルの2階に、誰でも無料で上がれる撮影テラスがあります。狙うのは、毎時ちょうどの数分前です。1881年(明治14年)8月12日に札幌の街へ時刻を知らせ始めた時計は、いまも毎正時、時刻の数だけ鐘を鳴らしていて、その数は1日156回。正午なら12回です。

公式サイトで私がいちばん長く読み込んでしまったのは、観光案内ではなく、機械の修理の記録でした。取り替えたのは、重りを吊すワイヤー、文字盤の木製の針、欠けた歯車の歯2本とネジ数本、重りを巻き上げるハンドルの軸1本。それ以外は、ニューヨークのハワード社から届いた当初の機械が、130年以上たったいまも時を刻んでいます。

鐘を聞き終えたら、地下鉄には乗らずに南へ歩いてください。その先に、1971年に開いたコーヒー店のカウンター、明治の初めに魚売りから始まったといわれる市場があり、狸小路の7丁目には、1927年(昭和2年)創業で、ほうじ茶を毎日焙煎しているというお茶屋さんが待っています。

オフィス街の、白い小さな建物

下から見上げた時計台の白い下見板張りの正面。破風に赤い星があり、その上に文字盤が見える
西を向いた正面。破風に赤い星が並びます。写真:Balon Greyjoy / CC0(Wikimedia Commons)

時計台が建っているのは、丘の上ではなくオフィス街の中です。建物そのものも塔ではなく、木造2階建ての講堂です。正式な名前は「旧札幌農学校演武場」。北海道大学の前身の札幌農学校が、生徒の兵式訓練や入学式・卒業式を行う講堂として、1878年(明治11年)に建てました。できたばかりのころは時計塔がなく、屋根の上には授業の始まりと終わりを告げる小さな鐘楼があるだけでした。塔時計をニューヨークに注文したのがその年の10月、鐘が鳴り始めたのが3年後です。

公式サイトには、この建物の見た目の弱点まで書いてあります。時計塔を後から付けたため、正面の姿は「頭でっかち」でバランスが悪いとも言われる。そう認めたうえで、「逆にこの独特の姿が親しみを感じさせるものとなっています」と続けます。白い壁も、建てられたときは灰色で、その後は薄いグリーン、グリーンだった時代もあるそうです。見上げたら、赤い星を数えてみてください。開拓使のシンボルマークで、時計台には17個あります。

よその塔時計には、夜はうるさいからと鐘を止めているところもあるそうです。けれども時計台のまわりはオフィス街なので、「夜間に鳴らしても怒られることはありません」。鐘は昼も夜も、毎正時に鳴り続けます。

なぜ西を向いているのか

1906年(明治39年)、農学校がいまの北海道大学の場所へ移ったあと、建物は時計塔と時計機械をつけたまま、解体せずに約150メートル引いて動かされました。いわゆる曳家です。詳しい工事の記録は残っておらず、請負者は山本金太郎と「伝えられています」。

この移動の話で私が気に入っているのは、建物の向きがたった2票の差で決まったことです。工事の予算を話し合った区議会で、街の中心である南の大通側へ向けるべきだという意見と、建てたときの姿を尊重して西向きのままにすべきだという意見がぶつかりました。採決は西向き8人、南向き6人。いま記念写真を撮る人が立つ撮影テラスは、その西を向いた正面入口の真向かいにあります。

中に入るなら、入らないなら

開館は8時45分〜17時10分(入館は17時まで)で、休館日は1月1日〜3日だけです。観覧料は大人350円。小学生・中学生・高校生は無料で、中学生と高校生は学生証を見せます。クレジットカード、交通系ICカード、QRコード決済なども使えます(一部除外あり)。

2階は、明治時代に講堂として使われていたホールです。ベンチに腰かけたクラーク博士の像があり、隣に座って記念写真を撮れるので旅行者に人気があります。塔の中の時計機械室は保守をする人しか入れず、1881年の機械そのものは見られません。代わりに見られるのが、同じハワード社が1928年に作った時計機械で、公式サイトによれば塔時計の仕組みがよくわかります。日によっては、この時計の巻き上げの実演もあります。毎月第1月曜日の夜には、明治の講堂に置かれたピアノを、受付で申し込めば弾くこともできます(どちらも日程は下の表に)。

中に入らないなら、正面入口の真向かいにある札幌MNビルの2階テラスへ。誰でも無料で上がれます。公式サイトのコツは、カメラをできるだけ低い位置から構えること。そうすると人物と時計塔が一緒に入ります。夏は、時計台の背面の斜め向かいにある札幌市役所の19階展望回廊も無料で開放され、赤い屋根を上から見下ろせます。

日が暮れると、時計台は21時30分までライトアップされます。札幌観光協会の「ようこそさっぽろ」がとくに勧めているのは冬の夜で、時計台を包む雪が明かりを受けて、いっそう輝くのだそうです。

南へ歩く:コーヒー、魚、お茶

時計台から大通公園のほうへ、南へ向かいます。大通西1丁目のビルの地下2階にあるのが、1971年に創業した可否茶館の1号店です。北海道の自家焙煎珈琲の草分けを名乗る店で、席はカウンターだけ。営業は9時〜20時(日曜は18時まで)です。直火式で焙煎し、炒りたての豆をその都度ミルで挽いて、1杯に16gを使います。

街角に立つ青いひさしの低い市場の建物。後ろにマンションやオフィスビルが見える
創成川の東側にある二条市場。写真:Wing1990hk / CC BY 3.0(Wikimedia Commons)

そのまま南東へ。市場の案内で大通公園から徒歩5分の二条市場は、明治の初めに石狩浜の漁師が石狩川をさかのぼり、このあたりで新鮮な魚を売ったのが始まりといわれています。創成川の東側に13軒の店が集まって「十三組合」をつくり、1902年(明治35年)の大火で一帯が焼け野原になったあと、再建されました。年中無休で朝から開いていて、時間は店によって違います。早起きしたなら、散歩はここから始めてください。市場に寄ってから、8時45分の開館に合わせて時計台へ戻る順番です。

夜、長いアーケード商店街の入口にかかる明かりのついたアーチ。「狸小路1」の看板が見える
夜の狸小路1丁目の入口。写真:MIKI Yoshihito / CC BY 2.0(Wikimedia Commons)

市場から1分で、狸小路の1丁目に出ます。アーケードを西へ、1丁目ずつ7丁目まで歩いてください。7丁目の幸乃園 安中茶舗は、昭和2年に「狸小路商店街唯一の日本茶販売店として創業」したお茶屋さんで、独自の焙煎法で、ほうじ茶を毎日仕上げているといいます。営業は平日10時〜19時、日曜・祝日は13時〜18時30分。休みは第3日曜日なので、その日に散歩の締めくくりをここにすると、閉まった店の前に着くことになります。

歩くのはここまで。この先は、すすきのの夜です。

出かける前に

札幌市時計台北1条西2丁目。8:45〜17:10(入館は17:00まで)。1月1日〜3日休館。大人350円、大学生150円(学生証を提示)、小学生〜高校生は無料(中学生・高校生は学生証を提示)。JR札幌駅から地下歩行空間を大通方面へ約10分(9番出口)、地下鉄大通駅の市役所側出口から徒歩5分。駐車場なし
毎月第1月曜日たいてい20:00まで開館(祝日なら翌日。実施しない日は公式サイトに掲載)。夜の時間帯はホールのピアノを一般開放、受付で申し込み
巻き上げの実演10:30から。実施日は公式サイトで週ごとに告知。毎月1日はなし
撮影テラス正面入口の向かい、札幌MNビル2階。無料
ライトアップ日没〜21:30
可否茶館 大通店大通西1丁目 地下2階。9:00〜20:00(日曜は18:00まで)。カウンターのみ。定休日は公式サイトに記載なし
二条市場南3条東1〜2丁目。年中無休で朝から。時間は店により異なる
幸乃園 安中茶舗狸小路7丁目。平日10:00〜19:00、日曜・祝日13:00〜18:30。第3日曜日休み。臨時休業あり(公式サイトのお知らせに掲載)

2026年9月29日に確認。

札幌の中心で私ならこうする

私なら、12時の5分前に向かいのテラスに着くように予定を組み、鐘を12まで数えるつもりです。取り替えた部品を数行で書き切れてしまうあの修理の記録を読んでからなら、ただの時報には聞こえないはずだと思うからです。歩くのはそのあと。すすきのの夜が始まる前に、狸小路7丁目でほうじ茶を一袋買っておくところまでが、私の札幌の昼です。

この記事の筆者は、札幌市時計台と紹介した店を訪れていません。 事実は下の公式情報によるもので、2026年9月29日に確認しました。

  • 札幌市時計台(公式サイト) — 歴史、ハワード社の時計と取り替えた部品、1906年の移動と向きをめぐる採決、建物の構造、壁の色と赤い星、夜の鐘、展示、開館時間、観覧料、第1月曜日の夜間開館、巻き上げの実演、撮影テラス、交通:sapporoshi-tokeidai.jp/know/walking.php、sapporoshi-tokeidai.jp/know/tell_defense.php、sapporoshi-tokeidai.jp/know/structure.php、sapporoshi-tokeidai.jp/know/bits_of_knowledge.php、sapporoshi-tokeidai.jp/inspect/exhibition.php、sapporoshi-tokeidai.jp/inspect/guide.php、sapporoshi-tokeidai.jp/access/、sapporoshi-tokeidai.jp/
  • 文化庁(文化遺産オンライン) — 建物と、1970年の重要文化財の指定:online.bunka.go.jp/heritages/detail/188689
  • 札幌観光協会(ようこそさっぽろ) — 札幌MNビルのテラス、市役所の展望回廊、クラーク博士像、21時30分までのライトアップ:sapporo.travel/find/culture/clock_tower/
  • 可否茶館 — 大通店の営業時間と、店の歴史:kahisakan.jp/shop、kahisakan.jp/about_k
  • 二条市場 — 市場の歴史と営業時間:nijomarket.com/about
  • 幸乃園 安中茶舗 — 店の歴史、焙煎、営業時間:kounoen.net
  • 写真:トップの写真は Ninosan(CC0)、時計台の正面は Balon Greyjoy(CC0)、二条市場は Wing1990hk(CC BY 3.0)、狸小路は MIKI Yoshihito(CC BY 2.0)。いずれも Wikimedia Commons

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